本研究は、コミュニケーション困難を示す重症心身障害児・者の認知機能を、教示なしのP_<300>(passive P_<300>)を用いて測定することを目的とした基礎的研究である。本年度は、健常児・者40名を対象にpassive P_<300>の測定を行い、その振舞いについて検討し、重症心身障害児・者にpassive P_<300>を適用するための基礎資料の収集を行った。具体的には、種々の有意味語(目標刺激)とその語順を入れ替えた無意味語(非目標刺激)とを1対1の割合でランダムにヘッドホーンより両耳呈示し、有意味語に対するpassive P_<300>を被験者の語彙関心度(親密度)との関係で検討した。同時に、passive P_<300>と通常のP_<300>との比較から、両者の相違点、波形の特性などについての基礎データを収集した。その結果、以下の点が明らかになった。1.passive P_<300>は、課題を荷す通常条件のP_<300>より低振幅であるが、形態的にも潜時的にも類似性が高いことからpassive P_<300>は通常のP_<300>と同じ心理過程を反映しているものであることが示唆された。2.passive P_<300>は、有意味語に対して明瞭に出現する。また、その有意味語は、被験者にとって関係の深い語でより明瞭な波形が出現することが明らかとなった。 本年度の基礎データの結果から、重症心身障害児・者のpassive P_<300>が測定できることが示唆され、また、彼らへの刺激語としては、彼らが日頃聞かされている言葉(名前など)を有意味語として用い、この有意味語の語順を入れ替えたものを無意味語として用いることが適切であることが示唆された。この方法を用いて次年度には、重症心身障害児・者に対して実際にpassive P_<300>の測定を行い、その波形の出現状態を検討することにより、彼らの認知機能を知るため基礎資料を得る。
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