本報告は、コミュニケーション困難児・者、特に、重症心身障害者の言語認知機能を事象関連電位(ERP)を用いて他覚的に検査することを目的に行った基礎的研究である。 初年度の2つの研究から、1.無課題下で種々のERP成分の測定が可能であり、その応用可能性が大きいこと、および、2.無課題下での言語認知を検討する場合の有意味語と無意味語の選択条件が明らかになった。また、3.有意味語と無意味語の違いが、それぞれERPのN_<100>、P_<200>、P_<300>、N_<400>、LPC成分に反映され、特にP_<300>以後の成分に有意味語と無意味語の違いが顕著に反映されることが明らかになった。これらの結果を踏まえ、2年度度に行った健常者に関する研究と重症心身障害者に関する研究から、以下の点が明らかになった。まず、健常者の場合、有意味語にはP_<300>とLPCが出現するがN_<400>は出現せず、逆に、無意味語には、N_<400>が出現するがP_<300>としてLPCが出現しないことが明らかになった。また、重症心身障害児を、言語理解能力の良好群と不良群の2群に分類した結果、良好群の場合、有意味語では、健常者と同様にP_<300>とLPCが出現しN_<400>は出現しないが、無意味語では、健常者に出現したN_<400>が出現しなくなることが明らかになった。一方、不良群の場合には、明瞭なERP成分が得られなかった。 これらの研究結果から、ERPのN_<100>、P_<200>、P_<300>、N_<400>およびLPC成分の振る舞いを見ることによって、重症心身障害者のようなコミュニケーション手段をほとんどもたない人々の言語認知機能を他覚的に知り得ることが示唆された。
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