今年度は、本研究テーマに関連すると思われる先行研究のレビューと実験室実験を行った。 まず、集団による「情報の獲得と貯蔵プロセス」と「情報の想起および共有プロセス」にかかわると考えられる先行研究の概括を行なった。これは本研究の目的に即しながら、社会的認知や情報記憶にかかわる既存の諸文献において報告されている主要な知見を整理することによった。 また、実験室実験によって、集団に異なるフレイミング(問題についての意味づけ;認知的枠取り)を与えたとき、【.encircled1.】集団がその後に必要とみなして着目する情報に、【.encircled2.】それらの情報を活用して創り出す解決策に質や内容に、そして【.encircled3.】集団成員の体験(課題の難しさ、ディスカッションの雰囲気、解決策の満足感)に、それぞれどのような違いが認められるかを検討した。 被験者は123名の大学生。3人で1集団とした。課題は集団で話合い「ある製薬薬品会社で発生した新人研究員にかかわるケースについて適切な解決策を考える」ことであった。それに先だって、各集団にはフレイミングが与えられた。これには「人間性重視(個性の重視や人間性重視)」(16集団)と「業績重視(自社の業績を伸ばし他社との競争に負けない)」(16集団)があった。この他に統制群(特定のフレイミングなし)9集団も設けた。実験結果はフレイミングの効果がかなり顕著であることを示していた。解決策を考える上での注目情報(ケース中のどの文章に注目するか)は、業績重視群では業績に関連する情報が、人間性重視群では登場人物の気持ちに関連する情報が、それぞれより多く注目された。解決策の内容も同様の方向で違いがみられた。興味深いことに、フレイミングなし群の成員において話合いの過程および自らの解決策により満足する傾向がみられた。
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