研究概要 |
「モニター能力の育成と発生機構に関する研究」という主テーマに対し,今回は次の2つの視点から,すなわち,その一つは学習主体者と課題との間の2項関係のモニタリングについて,他の一つは,"自己-他者-課題"との間の3項関係のモニタリングについて実験調査を行った。2項関係のモニタリングに関しては,これまで殆ど研究が展開されていなく,しかも極めて重要な問題である「子どもは課題の制約条件に応じて如何に自己の知識をダイナミックに利用するか」という問題に焦点を定め,小学生2,4年生を対象に実験を行った。その結果,【.encircled1.】課題に取り組む前に課題制約と自己の知識との関係や,制約条件と目標設定との間に関係を十分にプレモニタリングするか,【.encircled2.】課題解決中の自己の認知的営みを対象化しながらどれだけ適切にモニタリングするかによってパフォーマンスが決定する,【.encircled3.】プレモニタリングや遂行中のモニタリングの程度には,年齢的な発達差と同時に個人差が存在することが分かった。 3項関係のモニタリングについては,内的な「自己対話」がまだ十分でない幼児を対象に,3人の子どもが協同しないと解決できない協同問題解決課題を与え,そこでの失敗体験の原因帰属の分析や遂行過程でのモニタリングさらには課題解決前後の知識の変化を分析した。その結果,【.encircled4.】幼児でも直接的にしかも感覚的に失敗の原因が明確に分かるような状況を設定すると,自己-他者間の関係を適切にモニタリングできる,【.encircled5.】例え認知的には3者間の目標設定ができても,それに向かって自己-他者の行動を適切にしかも微調整することが非常に困難である,【.encircled6.】3者間の行動の微調整の為には,自分たちの遂行過程を鳥瞰的にモニターする第3者的な"もう一人の私の目"が各自の中に芽生え,その目のもとに3者の行動が一体化していくことが不可欠であることが示唆された。 今回の成果は,モニターの媒体が外在化している状況と自己の中に内在化している状況とバラバラな状況での研究であった為に,如何なるステップを経過しながら,モニタリング機構が,個人の中に内在化していくかは十分に解明されたとは言い難い。今後は,その変化過程を詳細に分析し,モデル化していくことが必要不可欠である。
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