我々は、80年代以降の地域変動の著しい農村地域の高齢者の生活構造がいかなる変容を遂げてきているのかを把握するとともに、高齢者の精神的・経済的・生活者的自立の地域的諸条件を探る研究を進めてきた。 具体的には関係文献のサーベイ、研究の視点・方法の吟味、高齢者福祉・教育・農業の全国の優れた活動事例の収集、高齢者の存在形態に関する統計分析、高齢者の自立の諸条件を解明する事例調査、及び分析という手順で行ってきた。平成6年度に「研究成果報告書」を取りまとめることができない理由は、高齢者の地域活力を高める上での地域組織の役割や、地域福祉や高齢者の生きがいづくりに関する事例分析がまだ残されていたこと、さらには事例分析を踏まえての高齢者の自立に関わる理論的検討がさらに必要なためであった。 その後これらの課題について検討し、茨城県大子町、里美村の調査分析から既に女性高齢者の生産協同活動の意義が明かにされていたが、さらに里美村里川地区の分析から1.地域活力を高める上で地域組織の役割が大きいこと、2.その際、かつてムラにあった地縁的基礎集団に代わって、年齢階梯や家格によらない農家間、家族間のフラットな関係をつくりあげている地区公民館の役割が大きいことが明らかにされた。福島県三島町の調査分析から、高齢者農業の実態の分析を通して、高齢者農業における農地保全、自然と生活を調和させたライフスタイルの社会的意義が明かにされた。北海道美幌町の調査分析からは、福祉行政や社会教育のあり方から、高齢者自らがの生活設計・生活創造の重要性、その視点からの、福祉教育実践の必要性、あるいは福祉計画や社会教育計画への自主的・主体的参加が重要となってくることを明かにした。この点については今後さらに詳細な検討を行う予定である。また、事例分析に基づく総括的な理論化は今後の残された課題である。
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