1.わが国の高度経済成長期以来、山村の地域社会や住民生活の変貌は激しく、特に急激な人口流失による、過疎化の拡大は、山村を崩壊の危機に陥れているところも多い。このような山村の地域社会の再生、更に発展へと導く、地域振興のための諸事業は、単に山村の旧来の伝統を打破、否定するのではなく、山村の伝統、特に、地域の伝統的な文化、生活組織、集団組織等を十分に活性化し、改変し、再生を図るものでなければならない。 2.北陸の典型的な山村である富山県利賀村は、若年齢人口の激しい流出、更に、挙家離村の拡大による深刻化してきた過疎を克服するために、夏の世界演劇祭、秋の山祭り、冬のそば祭り、更に、平成4年夏の世界そば博覧会と、特異なイベントの開催等による積極的な地域振興で、広く注目を集めている。 3.これらの地域振興事業やイベントの多くは、この村の伝統的な文化や生活と深く結びついている。例えば、夏の世界演劇祭は、この地域特有の合掌造りの民家を移築した「合掌文化村」の、合掌造りを改造した「利賀山房」を中心に開催される。また、秋の山祭りでは、家の新築時の基礎石を突き固めるための「石かち行事」や村の伝統芸能が中心になっているし、冬のそば祭りは、冬季、村人が古くから相集まってそばを打って食べる伝統に根ざすものである。更に、この伝統的な「そば文化」は、この村の観光施設としての「利賀そばの郷」の建設や「そばの世界-そのひろがりと出会い」をテーマとする、一大イベント、世界そば博開催へと発展した。 4.このような村の伝統文化は、伝統的な村の生活や集団組織に根ざすものであり、従って、その伝統文化を生かした地域振興活動は、その生活や集団組織、ひいては村の活性化、再生に貢献するところ大であろうが、今後の村の発展のための、真の創造的な再生に導くものになっているかどうかの究明は、次年度の研究課題である。
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