本研究は、トヨタ自動車という巨大企業の進出によって、旧産炭地である筑豊地域の社会構造、権力構造がどのように変容したか、また地元自治体の行財政構造がどのように変容したかを考察するものである。 まず、社会構造の変容については、トヨタ自動車本社が愛知県下で展開してきたような地元自治体、地域への千渉はほとんど見られず、「自律型」とでも言うべき態度をとっていることが明らかとなった。トヨタは愛知県での対応に対する反省からか、職場と住居を異なる自治体に振り分けるという職住の完全分離形態を採用し、その両側面において1つの自治体と関連を持つことを避ける対応をとってきている。しかし、そのようなトヨタ側の戦略にもかかわらず、地元の宮田町は様々なレベルで、自治体行政のあり方に変容を追れている。その意味で、旧産炭地の社会構造は、トヨタ側の意図とは関わりなく変容過程にあるのである。 権力構造については、愛知県で行なわれてきたような職員や首長の擁立といった現象はまだ見られない。この点については、操業後まだ日が浅く、また法人税の納入も行なっていないことが大きく関連しているよう。 地元自治体の行財政構造は、トヨタ自動車九州(株)として現地法人化され独立採算制をとったため借入金超過の状態にあり、税収がいまだ得られていないこともあって、大きな変化は見られない。しかし、近い将来には、宮田町の財政構造そのものを大転換させるだけの税収があることは明らかであり、その際には権力構造の変容とあいまって、自治体の構造転換が余儀なくされることは必要である。この点について、将来の追跡調査が実施されねばならない。 全体として、これまでトヨタ本社がとってきた対応とは全く異なる方法で地元自治体に接しており、その点では興味深いケースを示している。今後、どのように展開するか、追跡調査が是非とも必要とされる。
|