長崎県五島の崎山地区の事例については、養蚕・煙草・和牛飼育の業種間のかつての鋭い利害対立や感情的な葛藤が基本的には過去15年間持ち越されている。その最大の要因となった農業開発を推進した各組織や行政には、さまざまな協調努力にも係わらずこれらの対立を調整できる能力に欠けていることが明らかとなっている。このため再統合の可能性は地域住民の主体的な非経済的もしくは伝統的な制度や過程に委ねられているという認識は高まっており、その具体的な試みとして、養蚕農家ヲ中心に婦人たちの活動による幾つかの新しい活動や、年長世代が主体となった郷土史や伝統行事などを手掛かりとして調和と凝集を模索する活動が見られる。しかしその一方では、80年代からの輸入品攻勢による養蚕の停滞や、煙草専売政策からの転換やその先行きの不透明さなどに起因する、農業離れによる後継者難といった新たな外的な要因がかえって業種を越えた共通の関心事となって浮上しており、対立葛藤と強調とが共存する状況が明らかとなっている。 佐原市における旧市街地区の再開発の運動は、その構想が打ち出された当初は特に障害は無いように思われたが、その後の展開は他地方の成功例のようにスムーズには進んでいない。その要因としては、佐原の発展と市町村合併に伴う地区間の伝統的な利害関係や感情を背景とした市政の方針に深く係わっており、根深い政争とも絡んでいるため、そのための合意形成を推進する指導性が行政にも地域住民にも欠けている点が明らかとなった。この点については今後むしろ同様な歴史・立地条件にある成功例や失敗例との比較検討をとおして明らかにすべき問題のように思われる。
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