平成5絶対は、沖縄本島地方(おもに那覇市、宜野湾市、読谷村、具志頭村など)と八重山地方(石垣市、宮良、白保、川平など)で、伝統的な井戸を訪ねて、写真撮影と計測・図面つくりをおこなった。井戸とその付帯設備の様式の多様性を把握するようにこころみた。井戸の様式を編年にもちいるまえに、井戸の様式(掘り抜き、せき止め、掘り下げ、ヒージャー形式など)に関与する要因をあきらかにすることが、必要と考えられた。いまのところ、関与要因として、井戸の立地と水源の相対的位置関係、水源の水量(湧水の有無など)、微地形のありかた(崖や岩の状態)、地質条件(岩盤か砂質か)の重要性を指摘することができる。編年に井戸の様式をもちいるためには、まずこれらの関与要因が同じところでの対比からはじめなくてはならない。改修や改造が多く、絶対年代測定の方法を見いだしにくい井戸であるゆえに、慎重にその様式を相互に比較して、地域的な分布を明確にして、類型論を編年につなげる努力をつづけている。調査の中間発表は、平成6年1月28日の南西諸島研究会(明治大学)において、スライドをもちいておこない、いくつかの論点にかんする議論をおこなうことができた。また、沖縄在住の民俗研究者(近年精力的に井戸にとりくんでいる興南高校の長嶺操氏など)とも会い、意見を交換し、教示をえることができた。資料の整理をすすめ、時代差や地域差につながる井戸の形態的特長を発見し、井戸をエスノ・ヒストリー再構成のてがかりとするための第一段階としたい。宮古地方での調査をおえてから、レポート、論文の作成にかかりたい。
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