琉球列島にみられる宗教施設のうち、とくに集落全体の信仰の対象となっている井泉の石造構築物を中心に調査をおこない、その特徴から時代編年の可能性をさぐった。これによって、とくに先島地方への、琉球王府の政治的統制がゆきとどき、先島地方の宗教世界観に大きな改変がもたらされた時期を措定できるのではないかと考えた。この視点から、沖縄本島、宮古群島、および石垣島(八重山群島)の井泉を実地調査した。この結果、井泉の石造構築物の形態に決定的な影響をもつ要因として、(1)の水源の位置、とくにその地表面からの深さは、井泉の分布をも左右する。また、(2)地表の微地形も、大きな要因で、微地形とそれとの水源の位置関係が、井泉の形態上の大きな特徴を決するといってもよい。(3)水源からの水量も、溜め池部分をつくったり、水源を保護する石囲いの有無を決める可能性がある。さらに、(4)断層崖やカルスト地形等、大きな地質構造上の特質も、井泉の形態を決する大きな要因である。また、(5)掘削の技術水準と、井泉の立地している地域の地盤のかたさ(とくに、砂質か岩盤か)は、井泉の建造の可能性にかかわる。以上の調査結果から、編年のための井泉建造物の比較をおこなうためには、上記の諸条件を同じくするものを対比していく必要が明らかになった。そのうえで、平面が馬蹄型になる井泉の分布と成立の時代についての研究が、本調査研究を推進するひとつの糸になるであろうという暫定的結論をえた。宮古・八重山群島への琉球王府の実効のある統治の開始の時期について、本研究はかなりの困難とあるものの、寄与可能なことが明らかになった。
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