本研究の最終年次にあたる平成7年度には、前半において白山麓に位置する石川県石川郡吉野谷村下吉野、中宮の両集落において、前年度の実施調査をうけて地域おこし事業に関する補充調査を実施した他、比較資料の収集を目的として、石川県加賀市橋立地区の黒崎、深田両集落においても、実地調査を実施した。また、年度後半には平成5年度、6年度に収集した資料をあわせて、総合的な見地からまとめの作業を行った。以上の成果として、吉野谷村についての調査報告書『石川県石川郡吉野谷村下吉野と中宮』(金沢大学文化人類学研究室、1995.9)をまず刊行したのち、科学研究費補助金研究成果報告書『北陸の農村地域共同体における地域振興計画・事業の実態の実証的研究』(1996.3)を刊行した。 本研究では全体として、地域振興事業の実態を、農村地域のもっとも基礎的な共同体である集落レベルにおいて把握することに主眼をおいた。研究の進行にともない、地域振興事業そのもののありかたも、またそれに対する住民の意識もきわめて多様であることがあきらかとなったが、本研究の後半では、とりわけいわゆる過疎地域の集落における地域振興事業に対象をしぼり、集中的にその実態と問題点を解明することにつとめた。その結果、過疎地域集落の地域振興事業の目的は、事業主体である自治体(市町村レベル)、集落レベル、いずれにおいても、住民生活そのものの一般的向上であるのに対し、事業の実施に関与する国や上部自治体(県)、あるいは企業等においては、対象地域を他とは異なる特化した地域として再生させようとする傾向が強いこと、こういった関係者間の目的のズレが、実際の事業進行の過程で充分に認識、調整されない場合が少なくないことなどがあきらかになった。本研究は、それ自体として政策的提言を行うことを直接の目的とはしないが、ここで得られた知見は、いわゆる地域振興事業の、とりわけ過疎地域での実施に対して、一定の問題提起をなしえたと考えている。
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