我々は本研究に先立って、1987年以来、中国新彊維吾尓自治区における数次にわたる現地調査を行ってきた。そこでのわれわれの主要なる関心は、少数民族の民族としてのアイデンティティが、教育においてどのように維持、または変容されるかという点にあった。本研究では、維吾尓族、カザフ族に関連する文献の収集を行うとともに、その分析を行った。維吾尓族における民族文化のエッセンスとも言える長大な叙事詩「一ニムカム」の一部を収集することが出来た。カザフ族に関しては、Linda Bensonらによる優れたモノグラフ「中国のカザフ族」を分析中で、来年度における予備調査の準備をしている。一方、中国政府による牧畜民の定住化政策がカザフ族の民族文化の持続性に与える影響は深刻であり、今後とも注視し続ける必要がある。新彊維吾尓自治区を中心とする少数民族の教育については、「少数民族の教育」と題してその一部を発表した(権藤与志夫編「21世紀をめざす世界の教育」<九州大学出版会にて印刷中>所収)。 本年度は、九州大学と姉妹関係にある新彊師範大学から維吾尓族の研究者を客員研究員として本学に招聘する機会があり、この研究員に助けられるところが大きく幸いであった。しかし、他方では、カザフスタンの教育については、国情が今なお流動的であるため、来年度も引き続き第一次的資料の収集に当たる必要がある。 本研究では、単なる新彊における事例研究にとどまらず、マイノリティ文化の持続性と変容に関する一般理論の構築を目指している。そこでは、国家対少数民族との確執や調和が現実の問題となる。民族文化の教育は、この間の関係を考える基本要因となるであろう。
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