1、主として西南諸藩(萩藩・広島藩・高知藩等)の知行制について、昨年度の仙台藩を中心とする東北諸藩および報告者が従来から行ってきた佐賀藩等との比較を念頭におきながら検討してきたが、やはり例外的・特殊的と目されてきた上層給人の知行地支配の分析が近世社会の特質を考える上で重要との結論を得た(萩藩の福原家〔宇部市立図書館〕、広島藩の上田家〔三原市立図書館〕、東城浅野家〔広島市立中央図書館〕、土佐藩の後藤家〔安芸市立歴史民俗資料館〕等の調査)。すなわち、自らの「家」相続と領主的支配の連関構造である。特に、実質的な知行地支配業務を行っていた陪臣の役目規定等に、主人=給人の「家」連続と知行地の支配が関連して述べられる場合があることは重要であろう。また、成果の一部を報告した給人の家の葬礼をめぐる問題は、陪臣のみならず領民をも包摂した形式で実施され、「家」と領主制の問題を考察する上で今後に検討を重なる必要があろう。 しかし、他方でいわゆる近世領主概念の再構成の必要も感じられた。具体的には、萩藩の広範な在郷家臣、高知藩の郷土層と土地・民衆との関係である。彼らは地主的側面をも有していたと考えられ、彼らが村落共同体の実質的支配者としてたちあらわれる場合さえある。これは例えば仙台藩の所給人制や佐賀藩の被官制等との比較検討が必要であり、大名や上層給人と村落共同体との間で、さらに大庄屋・庄屋等との関係の中で、いかなる地域社会構造を構成していたのか。領主と民衆のそれぞれのレベルで多層な構造があり、私は上層給人(給人領主とよんでいる)の領主的性格を明らかにすることを通じて領主層の多層構造を解明しようとしたが、それだけでは勿論不十分で、在村し地主的性格を併有した中・下層の家臣と農民上層の村役人である大庄屋・庄屋クラスの関係の分析も、いわば「領国」地域では必要であろう。今後の課題としたい。
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