近世の幕藩制下における都市行政の実態を解明することを目的に、史料として江戸の町に触れ出された町触を使用して、その内容を分析した。その結果、第一には行政の基本となる法令の伝達方式の具体的な形態について数種の形態があることが確認された。これと関連して、第二には各町における役人の名主と月行事との機能分担について不明確な点があり、町奉行-町年寄-町名主の行政ラインについても今後さらに検討を加える必要があることが判明した。第三には、町方組織の整備があり、これは従来から指摘されてきたことがあるが、江戸の町が、人口的機能的に変化していくのにともなって、例えば火消し組や名主の組分けが実施された事情を考慮する必要が明白となった。 行政施策の内容については、幕府の強権的な体制を基本とするかにあって、町人の抵抗に合い、または町人の意向を聴取する姿勢を示す部分があることは、具体的な事項との関連を念頭におきながら、さらに検討していきたい。それは、他の町触の内容を理解するためにも重要な意味を持っていると考える。 また、町触の追加資料として「明和正宝録」「布告留」(国会図書館所蔵)、「町方日記」(神宮文庫所蔵)「天保御改革録」(東京都中央図書館所蔵)などを写真複製またはコピーによって収集し、今後の分析史料に加えることができた。
|