初年度においては、史料整理等の都合上、広い意味で歴史的にイラン圏に含まれるザカフカース(トランス・コーカサス、南コーカサス)諸国家の支配構造の問題について、研究およびその成果の公表をおこなった。 先ず、助成題目と直接関係のある中世に関しては、モンゴル帝国のグルジア支配の前提となるジェベおよびスベテイの遠征に関して、モンゴル軍とグルジア軍の三度に及ぶ戦闘の年次、場所、結果について、ペルシャ語、アラビア語、アルメニア語、グルジア語等の史料に基づいて考証した。また、1230-50年代にわたるモンゴル軍のザカフカース、東アナトリア、イラク、イラン北西部の活動に関する分析をおこない、モンゴル帝国の北西イラン支配について研究した。これらの成果は、講義において発表したが、前者については、「ジェベとスベテイのグルジア遠征」『史朋』に出版、後者についても、「チョルマガン軍政府考-12世紀30-50年代アルメニア、アゼルバイジャン、グルジアのモンゴル軍」として公刊発表原稿を作成中である。 今日のザカフカースにおけるいわゆる「民族紛争」は、ロシア帝国とオスマン帝国の進出、抗争によって中世的国家秩序が歪められて解体されたことに起因するが、この過程については、「ザカフカース」『スラブの世界』第9巻(1994年刊行開始予定)に発表した。また、この件に関する現代アゼルバイジャンの歴史記述の問題については、1994年1月日本国際問題研究所主催の「日英ラウンド・テーブル」において、“International affairsand ethinic conflicts in the Transcaucasia"として発表した。発表原稿は、公刊される予定である。なお、グルジア古代、中世、近世国家の諸問題についても、1993年8月東京外語大学アジア・アフリカ言語文化研究所の語学研修(グルジア語)において、講義を行った。
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