前年度の研究成果「ガンダーラの瑜伽師と弥勒信仰」をふまえて、ガンダーラにはじまった弥勒(みろく)信仰が西域・中国社会にどのように及び、どのような影響を与えたかについて、研究論文「ガンダーラ弥勒信仰と隋唐の末法思想」(未発表)を作成することができた。 弥勒信仰とは、現在トゥソツ天において修行する弥勒菩薩が、亡きシャーキャムニ・ブッダの跡を継ぎ、将来この世にブッダとして到来し、シャーキャムニ・ブッダの救いに漏れた人びと、仏教を護持した人びとを救済するという救世主的未来仏思想である。中国は西暦400年前後にガンダーラから多くのヨーガgの達人(大禅師)を迎え、また中国僧が多数ガンダーラに留学することにより、ガンダーラ弥勒信仰が中国に広まり、弥勒関係経典が多種漢訳された。当時の有力な仏教学者の道安(312-385A.D.)も熱心な弥勒信奉者であった。弥勒経典によると、弥勒仏が到来する前に人びとは現在よりさらに厳しい五濁悪世を経験し、寿命を10歳にまで縮める。しかし人びとの悔俊と修善により徐々に平和が回復され、寿命が五万歳というユートピア世界をつくりあげる。その時に弥勒仏が到来するという。しかし北斉時代の中国は大動乱期にあり、人びとは悪世の真っ只中、末法時代にあると信じた。そのため末法時代に速効性のある独特の仏教が必要とされ、いくつかの中国的新仏教、宗派が考えだされた。しかしそれはガンダーラ弥勒思想の一部分を強調したことになり、仏教を歪曲、矮小化することになりかねず、後世の中国、日本仏教を特殊化する遠因になったことを論証した。 研究成果としては、そのほか新出土のガンダーラ彫刻を漢訳経典で解釈した論文、建築意匠からガンダーラ美術の特色を考察した論文を作成した(別紙の「研究発表」参照)。
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