中華民国期(1912-1949)の国家権力の政策との関わりに着目しつつ、資本家団体である商会が中国の近代化に果たした役割を検討せんとする研究計画にそって、本年度は以下の点を達成することができた。 1 まず、北京政府期(1912-1928)を対象として、(1)中央政府たる北京政府の通商・産業政策に関する史料、(2)地方政府のサンプルとして江蘇省政府の産業政策に関する史料、そして(3)それら中央政府・地方政府の諸政策をめぐる江蘇省商会の対応をうかがわせる史料を収集・整理した。つぎに、国民政府期(1928-1949)を対象として、(4)日中戦争開始(1937)前における政府の同業団体統合策に関する史料、(5)同業団体統合策に対する上海の商会と工商同業公会の対応をうかがわせる史料を収集・整理した。 2 北京政府期については、北京政府農商部による各省実業庁と経済調査会の設立をめぐる内外の状況を明確にした上で、産業行政の全国的連携の強化をめざす農商部の通商・産業政策とそれに対して自立的たらんとする江蘇省政府との対抗関係を軸としながら、上海総商会に代表される江蘇省の商会が、そうしたなかで地方産業行政の整備・充実と地域経済の近代化に積極的な役割を果たしたことが確認された。 3 国民政府期については、世界恐慌の中国への波及・深化にともない、上海の商会と工商同業公会が政府に対して権力による同業統制の強化を訴えはじめ、結果的にそれが国民政府の同業団体統合策を統制的性格の色濃いものとしたこと、そして日本の侵略強化によって中国が抗戦体制の構築に向かう趨勢のなかで同業団体統合策は戦時統制立法に組み込まれていかざるをえなかったことが確認された。
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