研究概要 |
本研究は,近代中国における国内経済統一の課題を探るために,近代中国の貨幣・金融制度の特徴と歴代政府による金融・財政政策の展開を中心に検討することを目的とする. まず,今年度前半期においては,先行研究をベースに,辛亥革命以前の近代社会(清朝政府期)から1935年の「幣制改革」に至る時期の貨幣制度の概要とその特徴について,「近代中国における国内経済統一の課題-貨幣制度・金融政策を中心として-」(『高知工業高等専門学校学術紀要』第38号,1994年1月発行)としてまとめてみた.それによれば,1935年の幣制改革に至るまでの近代中国の貨幣は,その種類・単位が雑多・不統一で,価値が不安定であったために,貨幣が本来担うべき価格基準・流通手段・支払い手段としての機能を十分に果たすことができず,中国経済の発展にとってマイナスの影響を与えることになった.こうした「通貨秩序の混乱(多様性と不安定性)」,さらには,多様な金融機関の存在の背景には,中央政府のリーダーシップと統制力の欠如,外国資本の存在および軍閥の支配が深く関わっているのみならず,中国における「地方の自立性の強さ」について,改めて注目すべき必要性を痛感した.その意味で,今後,近代中国の歴代政府による貨幣・金融政策の実施が,地方政府あるいは地方社会によっていかに受け止められ,どのような結果を生み出していったのかを具体的に検証することは,単に,中国の国内経済統一の課題を明らかにするのみならず,中国の国家・社会の特徴および性格を考える上で,極めて重要な意味を持つと認識するに至った. なお,現在は,辛亥革命後の南京臨時政府・袁世凱政権の下で取り組まれた近代的貨幣制度の確立に関わる金融・財政政策の特徴について,「申報」・「時報」等の新聞類をベースに検討している.
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