鳥浜貝塚で1980年度から1985年度にかけて出土した約2700点の縄文時代前期木質人工遺物のうち、道具類の種類と数量は、以下の通りである。柄185点、弓・尖棒178点、小型弓30点、丸木舟1点、櫂61点、容器104点、掬い具4点、輪18点、骨製ヤス柄2点、用途不明木器13点、杭270点。 1.樹種選択 上記の分類を更に詳細に形態分類し、能城・鈴木(能城他、1996)による樹種同定結果を適用したところ、各器種の優先樹種は多くて2、3種に限定でき、明確な選択性の存在が明かとなった。これは同時に、完成形態が明かでない未製品を分類する上で、樹種が有効であることを示している。また、柄や櫂では細部形態の変異と樹種とが結付く例も認められた。 2.柄 すべて膝柄で、鋭角型と鈍角型に大別でき、鋭角型は台部の形態および加工方法の差異により3類4種に分けうる。ソケットの形態から鋭角型1類は縦斧、2類は横斧、3類Aは横斧の可能性大、3類Bは骨製・木製ポイントを装着したと推定できる。鋭角型1類は細部の形態変化により5型式に変遷する。鋭角型2類は前期後半での存在が顕著で、横斧主体から縦斧主体への変化を単純には論じえない。鋭角型1類の制作工程は2段階よりなり、その間に貯蔵があったと思われる。 3.櫂 柄頭の形態変化により編年が可能である。当初1形態(1亜種を並存)であったものから、北白川下層IIa式期に相前後して2形態が分化し、これらが各々独自に型式変化する。この型式組列の並存が、櫂柄頭の型式変遷の特質である。 4.容器 木取り、形態、塗装の有無を考慮した、前期後半の器種組成が判明し、樹種選択から塗装まで一貫した製作体系が存在していた。
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