新古今歌人の研究が進展している中で、慈円については伝記・思想分野に比して、和歌文学の分野ではあまり進んではいない。その原因はテキスト自体に問題があるからと思われる。そこで本研究は、彼の詠歌活動を解明するための前段階としてのテキスト本文整定を目的とする。 「拾玉集」の伝本の調査場所では、複数の伝本が紙焼写真で収蔵されている国文学研究資料館と、各伝本が所蔵されている諸機関とに大別できる。重点的に作業を進めるために、国文学研究資料館および東京の諸機関を中心とした調査を先行させている。今年度までの資料調査・収集は順調に進んできているが、撮影・写真頒布が許可されない伝本(陽明文庫本・関西大学図書館本など)については相変わらず難航している。これらの収集資料に基づき、どのように校合作業を進めていくかが、今後の課題になると思われる。 従来の伝本研究から、五巻本系統本の最善本である青蓮院本を中心に据えるべきだと思われるが、未公開のために、その忠実な転写本である高松宮本で代用するしかない。特に青蓮院本に付された校異・注記で示される「正本」が他の系統の成立に重要な意味をもたらすので、さしあたって校異・注記部分に集中して検討してゆきたい。その研究成果の報告は本研究の最終年度にあたる平成7年に提出する予定である。
|