1.研究史の整理-『太平記評判秘伝理尽鈔』およびその周辺の書についての研究成果を戦前・戦後を通じて整理し、研究文献目録を作成した。ただし、戦前のもの、および兵法関係書については十分な調査に至っておらず、今後の補訂を期したい。 2.伝本調査-昨年に続いて、前田育徳会尊経閣文庫・小浜市立図書館・天理図書館等の写本の調査と紙焼写真による収集を行なった。これによって『理尽鈔』の諸写本の書誌的調査は九割方、また紙焼写真の収集は六割方終了したが、紙焼写真をもとに諸本の校合を行なう作業が今後に残された大きな課題である。ただ書誌調査の過程で諸本についてのある程度の見通しを得ることが出来た。すなわち、18巻本の方が古く、40巻本でも内題・尾題に18巻本の痕跡を残している伝本があること、巻一巻頭の「或記日」とある注記は版本から混入したもので、これを持つ写本は版本の写しである可能性が高いこと、古写本は傍書されている「私日」「口伝云」という注記は、次第に本文化したり、或いは脱落していったりしていること、等が明らかになった。こうした見通しの下で、今後は諸本の校合を行なった上で、伝本分類の試案を提出したい。当初予定していた校本の作成は、分量が膨大なため多大な労力を要し、今回の報告書では、校本のための底本の翻刻(それも2巻分)を掲載するにとどまった。 3.関連資料の調査・収集-加賀・前田藩にかかれる文庫・図書館を中心に『理尽鈔』の類書のいくつかを見出すことができた。すなわち、『理尽鈔』全巻にわたる口伝の聞書(『極秘伝鈔聞書』)、『孫子陣宝鈔聞書』、『太平記理尽図経』の新写本で、これらについては順次、報告する予定である。
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