1.謡本群のうち、奥書識語を有するものについては、おおむね、依拠本文の系統を特定できるとの認識を得た。 2.まとまった謡本群で伝来のはっきりしている謡本群については、ほとんどの場合、伝来から全体的な本文系統が確認できるため、本文系統の特定作業を行ない得るという段階に到達した。 3.宗節本系や元頼本系等、同系統中の重複作品についての本文比較の重要性に気付いた。 4.鈔写謡本のリストを作成した。鈔写謡本リストでは、各謡本群について、所収曲名・所蔵者名・各種参考解題書等を列記し、本研究の実施者による調査に基づき、簡略なコメントを付した。 5.鈔写謡本各作品ごとの奥書リストを作成した。将来のデータベース化に耐えるという観点から、多数の項目を加えたため、予想をはるかに超える膨大な量となった。リスト原本は、汎用性をもたせるためテキストファイルの形式で作成してある。 6.新たに計画に付加した、元頼本系と宗節本系の対校作業を始めた。平成7年10月段階で10曲分の作業を終えた。その結果、観世流謡本については室町謡本と刊行謡本との本文系統の比較を行ないうることが判明した。 一見して刊記の全く同じ正徳6年弥生本中に、入木と改版による後刷一部求版本の存在することを発見した。この本の存在は、同版同一刊記と信じられていた謡本においても、入木等による本文・節付の異同のある謡本がほかにも存在する可能性を示す。この発見によって、刊記だけでも500種をはるかに越える刊行謡本に、さらに多くの種類のあったことがわかり、同版同一刊記謡本について、さらなる検討の必要性が生じた。
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