本年度は次の2つの点で研究上の成果が得られた。 1 『夷堅志』のテキストの考証や分析を通じて、洪邁がこの書物を編纂するに至った様々な背景や状況を把握できるようになったこと。『夷堅志』の各記事には説話の提供者の名前が記されているが、その人物を調査することにより洪邁の取材網を明らかにすることができた。その成果の一部は『岡山大学文学部紀要』第21号に掲載の予定である。 2 本年度の科研費で購入した各地の地方志には、宋代に伝承された多くの説話が記載されているが、とりわけ江南地方の水神・海神説話に注目して考察を行なっている。宋代でも特に南宋に入ると、福建や広東の開発が進み、これらの地方の説話も多く志怪筆記に収められるようになる。目下は浙江に於ける曹娥伝承や福建・広東に於ける天妃信仰などについて分析や考察を進めており、その成果の一部は『宋代史研究会研究報告第五集“宋代の国家と地域社会"』(汲古書院)(1995年刊行予定)に掲載される予定である。
|