本研究の目的は、自然言語における句構造の特性をこれまで見過ごされてきていた新しい観点からとらえなおし、統語構造における平行構造(parallel structure)、統語構造の平行的多重性の存在を実証的に検証し、その文法理論における重要性と可能性を明確化することにある。そこで、これまで平行構造が提案されてきた領域をこえて、より広い範囲で平行的多重構造が存在するという見通しのもとに、平成5年度は、与格構文・等位構造・右枝節点繰り上げ・小節(Small Clause)を中心として統語的多重構造の可能性を考察し、どのような環境において多重構造が存在するのか、また、どのような種類・性質の多重構造が存在しうるのかという問題を検討した。その結果、統語的多重構造の存在とその広範囲での適用可能性がかなり具体的な形で見えてきた。また、擬似関係節・ECM構文(目的語への繰り上げ)・主語関係詞としてのwhomの用法等、その他の構文についても多重構造の分析の可能性のあることが明らかとなった。さらに、ある特定の環境においてある特定の多重構造が許される、つまり多重構造の類型化という観点からも興味深い結果が得られた。そのひとつとして、動詞とその直後の目的語名詞句、そしてその後にくる要素との間に一定の関係がみられる場合に多重構造が可能となるというパターンがあることを指摘した。具体的には(1)動詞(V)・その目的語(NP)・それに続く要素(XP)の三者が姉妹の関係である構造と、(2)NP XPで一つのまとまりとなりそれがVと姉妹関係にある構造、という二重性が存在すると考えるとうまく説明できる事実を多数指摘した。そして、それは言語習得過程の観点から説明される可能性があることを示唆した。さらに、この多重構造の考え方は、統語構造としてbinary branchingの構造のみを仮定する最近のチョムスキー等の理論に対し大きな疑問を投げかけることになることを指摘した。
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