人称代名詞を中心に、ブラウンコーパスとロブコーパスにおける格標識について実際の使用状況を調査し、結果をまとめている。それによると、最小主義プログラをはじめ、主に米国の研究者がいうAGRoという機能範疇(functional category)が現代英語に存在する証拠はどこにもなく、目的格の照合はAGRoの存在を仮定せずに行わなくてはならない。そうすると、彼らの言うように主格は指定部・主要部関係において照合されるであろうが、目的格(もしくは対格)はむしろ主要部・補部関係において照合される必要があることになる。その点を考慮に入れて、平成5年度では格照合の具体的仕組みを提案した。この仕組みによって、SPEC-AGRoに論理形式(logical form)で目的語を移動せずとも、束縛理論(binding theory)に関する諸問題も解決可能であることも立証した。もう一つの重要な問題はいわゆるECM構文(exceptional Case-marking construction)不定詞補文主語に現れる目的格であり、これも最小主義プログラムではその不定詞補文主語をSPEC-AGRoに論理形式で移動することによって説明される。しかし、それも目的格である限りは、主要部・補部関係において顕在的統語論で照合される必要がある。その必要性が現実に存在することも、実証的に証明することができたと思う。 結論的には、やはり格は顕在的統語論で起こる現象であって、論理形式の問題ではないということである。
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