前年度に基礎的資料の整理はかなり進めることができたし、平成6年度もその作業を継続してきた。現代英語という屈折語尾がほとんど存在しない言語であるので、結果を出すことは困難であるが、コンピュータによる計算によって無意味ではない数字を出すことができたと考える。そこからだけでも、構造格しか存在しない現代英語においてさえも、形態的格標識が文法組織において不可欠な文法範疇であることが立証されたと言えよう。内在格が存在しない言語では、格標識は無用の長物に過ぎないという根強い主張があるが、それはやはり誤りである。特に興味深いのは二重目的語構文であり、ここにおいては構造格が非常に重要な役割を果たしている。もしも現代英語に構造格が存在しないならば、この構文の存在は不可能であろう。そういう意味で、この構文の重要性を再認識する必要がある。 あとはその結果からいかなる理論的結論を導き出すことができるかであり、格理論を前述の結果に基づいてさらに綿密に考察する必要がある。原理・媒介変数理論でも、最小主義プログラムでも格照合は指定辞・主要部の一致によって行われるとされているが、二重目的語構文を見ればその主張が誤りであることは一目瞭然である。換言するならば、この構文は主要部・補部関係による格照合の必要性を強く示唆している。また、同じことが主題役割付与に関しても当てはまり、これも指定辞・主要部の一致のみによって行うとする主張に、強い疑問を投げ掛けることになる。理論のみが優先し、経験的事実がゆがめられたり、無視されたりすることが多い最近の風潮に歯止めをかけるのは、やはりコンピュータによる計量的研究でしかないであろう。
|