今年度の目標は、原理・パラメター接近法や最小主義プログラムで提案されている格理論を、これまで収集した資料に基づいて評価することであった。そうした最近の理論では、格標示の基本的構造関係が指定辞・主要部関係のみであると言われている。しかし、収集した資料を厳密に検討するならば、それは明らかに誤りであり、主要部・補部関係もそこに含めなくてはならない。主要部・補部関係は恣意的に出てくる構造関係ではなく、主題理論においてもどのみち必要とされるものであり、その関係を格理論に導入しても、理論全体が複雑化されることはないであろう。この結論を導き出すに当たって特に注目したのが、現代英語の二重目的語構文であり、この構文では二つの目的語に構造格が二重に付与されていると言わざるを得ない。そうすると、構造格付与には指定辞・主要部関係以外に主要部・補部関係も必要という結論になる。このように仮定するならば、現代英語における多数の事実を説明することが可能になり、それは現代英語のように屈折語尾がほとんどない言語にも、抽象的なレベルでは格標識が存在することを意味している。これは本研究全体に関わる内容を含んでおり、格標識が顕在的統語論では存在しなくても陰在的統語論では存在し得ることになる。
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