五年度は、とりわけランボ-の詩と詩論の「歴史性」を中心に研究を行った(18世紀来の文学史との関連、パリコミューンを中心とした同時代性との関連)。六年度は、五年度の研究を受けて「歴史性」の視点を拡張しつつ、「現代性」という新たな視点も設定して、これら二方向から研究をすすめた(コミューン期の『アルデンヌ通信』に表れた諸概念の研究、諸外国…とりわけ日本および韓国…の現代史におけるランボ-の詩と詩論の受容の研究)。 その結果、両年度をとおして次のような新しい知見がえられた。 1 ランボ-の詩と詩論の1871年5月前後の急激な変化は、「血の一週間」へと向かうパリコミューンをめぐる歴史的情勢と密接に連動していたこと。 2 その連動は、『アルデンヌ通信』に表れたコミューン派を貶めるイメージを逆手にとってランボ-が自らの詩論を変貌させて行く、といったかたちでなされていったこと。 3 したがってランボ-の詩と詩論は、コミューン派に対するヴェルサイユ派の勝利と第3共和制の成立という時代の大きな流れのなかで理解されるべきであること。 4 ランボ-の詩と詩論を以上のような歴史性から見るとき、それらはたんにフランス一国の問題としてではなく、世界の現代にかかわる問題としてとらえられるべきであること。 以上の成果をふまえて、今後はランボ-受容の相互比較を梃子とした各国の文学・文化の共同比較研究の方向にすすみたい。とりあえずは連絡をとりあっている研究者のいるイタリア・ノルウェー・韓国などを対象としたい。 今後のランボ-研究は「フランス文学」の枠を越えるべきであり、フランス国外の研究者も自身の問題としてランボ-を問うべく新たな観点をもつべきである。そして日本の地でランボ-を問う者として、このような新たな観点をえることができたのは、本研究の当初の予想を上回る、望外の成果であった。
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