本研究は、フランスの詩人ステファヌ・マラルメの作品の批評版を、コンピュータ上で、いわゆるハイパーテキストの形式で構築することを目的とした。紙のうえに展開される批評版は、一つのヴァージョンとほかのヴァージョンとの2次元的な比較は得意だが、ヴァージョンが複雑にからまりあっている場合、3次元・4次元と比較項が増えた場合には、とたんに無力になる。その点コンピュータ上のハイパーテキストは、テキストの一点から別の一点へ、さらにまた別の一点へと、網の目のように比較・参照の関係を張りわたすことができる。それを利用して批評版をつくろうとしたのである。 ハイパーテキスト構築のソフトウエアとしては、汎用性を考えて「ハイパーカード」を用いることにした。そのうえで次のような手順で作業をすすめた。1)マラルメ・データベース研究会によってすでに構築されているDOS版のマラルメ・テキストデータベースを、マッキントッシュに読み込み、2)DOS版では表示できなかったフランス語特殊文字などを、表示できるように変換する、3)ハイパーカードを設計する、4)テキスト・ファイルをハイパーカードに読み込む、5)テキスト批評の作業をおこない、その結果をハイパーカードに書き込む。このうち2)と4)は、マクロを作成して作業を最大限に自動化した。また平成6年度に主としておこなったのは、5)の作業だが、前年度に大枠を決定しておいた3)についても、5)との関係で改良をおこなった。 この作業の結果、マラルメの散文作品のなかでも最も重要で、かつ複雑な成立過程を持つ“Crise de Vers"の批評版を完成させることができた。これによってコンピュータ上で批評版を展開するためのフォーマットができたので、今後はほかの作品についても作業をすすめていきたい。
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