研究計画第1年目である平成5年度には、研究の基礎文献の収集と調査に大半の時間が費やされた。18世紀末から20世紀初頭までの間に、神経症の問題がどのように展開され記述されてきたかをあとづけると共に、特にプル-ストとフローベールに現れた神経症の問題を考察し、論文にまとめた。これを受けて平成6年度には、二つの方向をさらに追求した。すなわち第一に医学思想の歴史をいっそう詳しくたどり、ギリシア時代のヒポクラテスの周辺から中世の悪魔憑きおよび魔女裁判、古典主義時代の精神病患者監禁方式、力動精神医学黎明期の動物磁気あるいは暗示療法、催眠術といった神経症前史を調査した。また第二に、モーパッサン、バルザック、ゾラなどのいわゆるレアリスム文学または自然主義文学の流れの中に、神経症や変質遺伝といった主題が色濃く反映されていることを重視して、いくつかの作品に現れた精神的変調の描写を小説の根本的テーマと関連させながら分析し、論文の形にまとめることができた。また、フローベールに関しては、前年の『ボヴァリ-夫人』論に加えて、『サランボ-』を取り上げ、特に生成過程における神経症の描写について研究を行った。またプル-ストに関しても、今年は初期作品『楽しみと日々』『ジャン・サントゥイユ』についてまとめてみた。これらの論考のほとんどは、1年後に出版を予定している薯書『神経症の文学--闇からの叫び声』にまとめられる予定である。
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