フランス文学のなかには、精神の不均衡や病的状態を描き出した作品が数多く見られる。それは文学の創作行為が人間の心の探求をその目的のひとつとすることから、当然のことに思える。19世紀から20世紀にかけての作品とりわけ小説を眺めてみると、特に神経症の問題が大きく取り扱われていることに気づく。3年間与えられた研究期間において、私は神経症がどのように人類の歴史において発生し、定義され、変貌を遂げたかをあとづけ、文学作品における表われ方を分析してきた。それは次の3点に分類される。 1. 古代から現代に至るまでの神経症の歴史。ヒポクラテスのいわゆる神聖病は、狭義においててんかんを指すが、広義では神経症を含む精神疾患をさす。18世紀にカレンが神経症という言葉を作り、19世紀を通じてしだいに心因性のものが神経症として再定義されるようになった。 2. フランス近代文学における神経症の表象。3つの時期に分けて検討した。 (1) レアリスムの時代(バルザック、フローベール) (2) ナチュラリスムの時代(ゾラ、ユイスマンス、モーパッサン) (3) 世紀末の時代(プル-スト) 3. 絵画と神経症の問題。特にジェリコ-のいわゆるモノマニ-の肖像画、ムンクの「叫び」、そしてシャルコ-による「悪魔憑き」図像のヒステリー解釈。
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