レオナルドの手稿とマキアヴェッリの著書から、力や美徳、自然観や人間観に関する用語や考察を抜粋し、その用例や用語に与えられた定義を調査することによって、両者の思想的な類似性ないし共通性を明らかにし、さらにその共通要素の分析を通じて、彼らによって体現されているルネサンスという時代の基本的な自然観や人間観を浮き彫りにしようと企てた。 レオナルドとマキアヴェッリの用いた「ヴィルトゥ」(美徳)の概念の分析は、本研究の中心をなしている。両者はいずれも、この用語を伝統的な「美徳」の意味ではほとんど使わず、むしろ現実的かつ物理的な「力」「何事かをなしとげる能力」の意味で使っている。つまり彼らには、超自然的で精神的なすべての価値や存在を、それらがこの自然界において作用し有効性を発揮する限りにおいて、承認しようとする、きわめて近代的な科学的態度を持っていたのである。この「ヴィルトゥ」の分析をもとにして、「ルネサンスにおける≪力≫としての人間観の誕生」を執筆した。さらに、両者の「水」に関する考察を調査して、水の運動と威力のイメージが、彼らの人間観のアナロジーとして用いられていることを明らかにし、“Eros e Thanatos nel pensiero di Leonards e di Machiavelli"(「レオナルドとマキアヴェッリの思想におけるエロスとタナトス」)を執筆した。また、レオナルドの水の運動とその威力に関する考察を分析した結果、彼の水の運動法則が、彼の植物表現に応用されていることを発見し、「アヤメと髪と水流と-植物表現の分析によるル-ヴルの「岩窟の聖母」の制作年代推定の試み-」を発表した。
|