研究概要 |
清代に出版された書物のうちに,問答形式の対話(満州語で‘fiyelen gisun',漢語で「套話」と呼ばれる)を集めた読本の一群があり,その多くは,満漢合璧体の体裁(満州文字による満州語と漢字による漢語とが同葉のうちに対照並示される)をとる.これら読本中の満州語は,早くから口語資料としての重要性が指摘された割には,実際の用例が提示されることは少なかった.この研究では,18世紀読本資料の代表として,《フィェレン・ギスン(満州套話)》と《オヨンゴ・ジョリン(清文指要)》の2種をとりあげた. 1)《兼漢満州套話(nikan gisun kamciha manjurara fiyelen gisun..)》(=manju nikan hergen icing wen ki meng bithe..《清文啓蒙》4巻本の巻2),雍正8年(1730年)序,雍正10年(1732)刊 2)《清文指要(manju gisun oyonggo jorin bithe..)》不分巻4冊(=tangg〓 meyen..タング・モイェン《一百條)》4巻4冊,乾隆15年(1750)?刊本,の満漢体改編本,乾隆54年(1789)刊 上記1),2)には,それぞれ異なる時期に作製された異版が多い.まず,出版時期が特定できる優れたテキストとして,1)は雍正10年(1732)刊《清文啓蒙》本,2)は乾隆54年(1789)刊《清文指要》本を選んだ(なお,2種ともにその内容はこれまでほとんど紹介されていない).それぞれの口頭対話(前者は50套話,後者は100套話からなる)をハード・デイスク上に集積したうえで,「句」(「句」は,「文」と「語」の中間の単位)ごとに添えられた漢語対訳を手がかりに,語彙語法の初歩的な検討を試みた.わずか2種の読本とは言え,「句」ごとに満漢両語を対照させるデータベースを作製したので,各読本の用例を「句」ごとに取り出す‘key words in phrases'形式での検索が可能になった.しかし,上記2種読本の他のテキストとの比較,18世紀の他の読本についてのデータ集積と通時変化の検討は,これからの課題として残された.
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