研究概要 |
当初の研究計画にしたがって,東京・京都・仙台・福岡など各地の図書館・史料館等に所蔵されている未公刊史料を採訪調査し,また主要設備として購入したマイクロフィルムの中からも,江戸時代前半期の幕府判例集で学界に知られていなかった写本類の存在を相当数確認することができた。具体的な成果としては,第一に,従来「公事録」・「公法纂例」など若干の写本の存在が知られていたに過ぎない判例集について,これが享保2年(1717)の火災に焼け残った唯一の評定所判例集たる「御仕置部類」の同一系統本であることを確認し,同系の写本あわせて9種19点を蒐集して比較検討し,それらの系統をほぼ明らかにした(後掲論文として発表予定)。第二に,町奉行所の牢帳系判例集として知られている「御仕置裁許帳」と同系統の写本を新たに発見したが,「御仕置裁許帳」には収録されていない判例を含む貴重なものであることが判明したので,平成6年度中に論文として発表すべく現在準備中である。第三に,江戸時代前半期の幕府民事訴訟制度に関する重要問題である「本公事」と「金公事」の分化について検討し,主要設備として購入したマイクロフィルム史料などの分析により,従来定説であった「明和四年評定所一座評決」説を批判し,更に享保改革期の新史料等を呈示することにより,江戸時代前半期の幕府判例法形成の一端を具体的に明らかにした(後掲論文として発表済)。第四に,主要設備として購入したマイクロフィルム「ハーバード大学ロー・スクール図書館所蔵日本史関係資料」に関連して,従来不明であり,又は誤解されていた同大学所蔵日本法制史料コレクションの全貌及び1930年代中葉における同コレクション収蔵の事情を明らかにした(平成5年6月12日法制史学会中部部会第10回例会において口頭発表済,現在論文を準備中)。
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