本研究の主たる目的は、(1)各地の図書館・史料館等に架蔵されている未公刊史料を採訪調査して江戸時代前半期(寛保2〔1742〕年以前)の幕府判例集を発掘し、(2)それに基づいて同時期における判例法形成の一端を究明すること、この二つであった。 (1)については、「(第一部)江戸時代前半期幕府判例集の伝来」として、(1)従来「公事録」・「公法纂例」など数点の写本の存在が知られていたに過ぎなかった判例集について、これが享保2(1717)年の火災に焼け残った唯一の評定所判例集といわれる「御仕置部類」と同一系統のものであることを確認するとともに、同系統の写本9種19点を蒐集してそれらの系統関係をほぼ明らかにし、(2)「刑罰集抜萃」を新たに見出して、これが町奉行所の牢帳系判例集として知られる「御仕置裁許帳」・「厳牆集」の異本であることを明らかにした。 (2)については、「(第二部)江戸時代前半期幕府判例法の形成」として、(1)刑事法に関して、幕府が公認していた私的刑罰権の一つである「敵討」・「妻敵討」の実例を発掘することにより当時の法制の一端を明らかにし、(2)私法史に関して、幕府民事裁判制度の基本概念の一つである「本公事」・「金公事」の分化の過程を相対済令との関係で究明した。 更に、これらの研究のための史料調査の過程で、ハーバード・ロ-・スクール図書館所蔵日本法制史料コレクションの内容及び収蔵の経緯を明らかにすることができたので、その一部を「(補説)在外伝来史料の一斑」としてまとめた。
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