東京地裁の明治32年から昭和24年までの民事判決原本役1400冊を調査し、離婚関係判決役1300件を収集しえた。妻よりの提起は967件で、夫よりの提起の約3倍であり、妻の勝訴率は87.7パーセントであった。その離婚原因で多いものは、(1)3年以上の生死不明(2)悪意の遺棄(3)虐待・侮辱(4)処刑であった。夫からの提起の場合は(1)悪意の遺棄(2)3年以上の生死不明(3)姦通(4)虐待・侮辱であった。その中に、これまで全く知られていない「破綻主義」の視点からの注目すべき判決を数多く見出すことができる。それは明治民法第813条第5号の解釈をめぐって展開される。(1)一つは夫の姦通に関するものである。同民法は、妻の姦通のみを離婚原因とし夫の姦通は規定していないが、裁判所は夫が情婦(妾)と同棲するか自宅に引入れた場合、あるいは情婦と家出した場合だけでなく、情婦との関係を継続して妻を顧みない場合や別居後の他の女性との同棲の場合すら、妻に対する「重大ナル侮辱」と認定する。これは姦通についての民法における夫婦不平等主義の修正であるとともに、夫の不貞によりすでに婚姻関係が破綻しているとして離婚を認めていると考えられる。しかし情婦と夫婦同様の性格を送っている有責の夫からの所謂有責配偶者からの離婚請求は認めていない。(2)また他の一つは夫の暴力に関するものである。裁判所は多くの事案でその行為の苛酷性、反復性ゆえに離婚原因としての「同居ニ堪へサル虐待」行為に該当すると判示している。しかし一方で精神病的な発作に基づく無意識的な暴力行為、病気を看護しない消極的虐待行為、背景に不貞行為がある場合の夫の暴力行為なども第5号の「同居ニ堪へサル虐待」としている。暴力行為の主たる原因を形成している婚姻関係の破綻の有無を重視しているのである。以上のように、初めて「破綻主義」が採用される現行民法以前に、東京地裁の具体的な判例の中では「破綻主義」法理の展開がみられるのである。
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