本年度は、研究テーマにかかる基礎研究を行った。人権理論の基礎に関して、個人の尊厳の意義、および、それに由来する幸福追求権ないし自己決定権について、ドイツおよび日本の議論を検討した。憲法の保障する自己決定権は、個人の一般的行為を広く保護しているとの結論に達し、この観点からの論文をいくつか発表した。 研究の自由については、ドイツおよび日本の基礎理論を調査し、それに基づく研究論文でにおいて、科学技術の発達が研究の自由に基づくこと、科学技術の無制約の発展は人間の生命・健康・生活、自然環境や生態系に害悪を及ぼすおそれがあり、研究の自由も法的に規制される必要があること、研究の自由の制限は人権制限との関係で慎重であるべきであるので、法律による規制が必要なこと、などを論じた。 科学技術の無秩序な発展は、科学技術の進展そのものを阻害するばかりでなく、個人の生存さえも脅かすことになるので、有効な統制が必要であるが、統制のためには、問題とされる科学技術の内容を、遺伝子組み換え、遺伝子治療、原子力技術などに類別し、それぞれの統制の方法を個別的に検討することが大切である。来年度は、科学技術の類型ごとに個別的な研究を行い、具体的な成果を挙げることに努める所存である。 また、科学技術の進展状況を実際に見聞することも重要であるので、来年度は研究所・病院などを実施に見学し、科学技術の現状を把握し、それとの関係で具体的な統制手段のあり方についても研究を深めたいと考えている。
|