初年度である本年は憲法史関係書、現憲法の基本的注釈書、英国との関係を含む社会・文化関係書を収集して、アイルランド憲法の鳥瞰図を得ることに努めた。その中でも特に憲法裁判の制度と機能については、序論的考察を二つの学術誌に掲載することができた。アイルランドにおける憲法裁判の論理における「法の一般原理」「高次の自然法」「民主的キリスト教世界における憲法的評価」といった概念の使用は、近年のヨーロッパ司法の傾向に合致するとともに、それより先んじて60年代始めに既に唱えられている点に、特に留意すべきであろう。こうした内実の発見は本研究の課題それ自体へのアプローチの一歩である。 さらに岐阜大学の堀越教授(本年3月退官)をはじめ、関連領域の研究者とも資料、研究の動向等について有益な示唆を得た。我が国におけるアイルランド法研究は、文学・歴史等の研究水準に比していまだ人的にも資料的にも初歩的段階にあるといえる。今後も関連領域の研究者との交流は、研究者が少ないだけに重要であるといえる。またアイルランド大使館より情報等のご援助を得ることもできた。 本年度は法令・判例等を中心とした資料の輸入に思わぬ時を費やし、これらを十分に駆使することころまで至らなかった。次年度は早々にこれらの資料がその他の学術書とともに入手されるので、実証的分析を一層強化して、アイルランド憲法を憲法裁判という側面から分析するという課題に迫ることにする。
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