アイルランドは「知られざる憲法裁判の王国」である。特に、1960年代以降の近代化とEC加盟などを契機にして、1937年に制定された憲法中の憲法裁判規定が積極的に機能し始めた。そこでアイルランドの憲法裁判の意義を明らかにしつつ、アイルランド憲法の特質の把握を試みるのが、本研究の目的であった。研究を通して以下のことが明らかにされたと考える。 (1) アイルランドの憲法と憲法裁判システムを正確に把握して、研究発表したこと (2) イギリスによる支配力の衰退と反比例的に憲法裁判の機能が強化されてきていること (3) 反英民族主義と民主主義とが結合した政治制度の典型の一つである比例代表制の選挙制度を分析したこと。その際、違憲審査制が機能することで比例代表制が定着していったこと。 (4) ダブリン大学の憲法担当教員との研究交流の基礎を築いたこと。具体的にも、今年、G.ホ-ガン教授を東邦大学客員教授として招請していること。 (5) イギリスの今日の成文憲法論や選挙改革論がアイルランドの憲法とその機能に関心を払っていること 以上の成果を得て、その一端はすでに論文として発表した。他方、時間不足で成果を公表するに至っていないものも残った。例えば、アイルランド1937年憲法の歴史分析それ自体は、その典型例である。その延長ともなり、今日の世界ニュースの焦点の一つでもあるIRA停戦と北アイルランド問題の検討も、今後の課題であろう。
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