研究概要 |
本年度(平成5年度)は,(1)現代型信用取引に関し,実態調査に裏付けられた実証的な資料づくりを実施した。具体的には,信用受領者から主張される抗弁の内容を中心に,信用供与機関に対してヒアリング等の実態調査を行い,契約内容・トラブルの形態やその解決状況などに関するデータの収集に努めた。また本年度は,(2)上記信用取引に関する裁判例を検討し,これを類型的に整理する作業を行った。そして,(3)本研究者は,その所属する研究会で,上記の実態調査から得られたデータを基に問題状況や裁判例の状況をまとめ,併せて若干の研究成果を報告した。 以上の研究過程を経た結果,(イ)現代型信用取引は,複数の取引当事者が環状的に結合してその一部に信用供与が組み込まれている類型と,商品が流通される過程に信用供与機関が関与する類型とに大別できること,(ロ)その各々の類型に応じて関係当事者の利害関係を把握すべきこと,(ハ)信用受領者の保護としては信義則の法理に頼らざるを得ず,今後はこの法理の適用を具体化する必要があること,との知見を本研究者は得るに至った。 なお,上記の研究報告を行ったため,裁判例の検討や理論構成の方向性を示すことができたが,他方で,現代型信用取引の夥しい形態に接したとき,その統一的な理論構成には相当の困難さが潜んでいる,との問題状況を改めて実感することにもなった。そこで,本研究者は,次年度では本年度の研究成果を更に発展させ,『契約法の再構成』(仮称)として出版が予定されている論文集に発表する計画を立てるに至った。
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