本研究は、タイ民商法典を中心的素材として、同法典と日本民法典との関係を具体的焦点に据えた継続的研究であり、本年度(初年度)は、その基礎研究として、タイにおける西欧法の継受を概括的に検討する作業に着手した。あらゆる入手経路を活用して収集に努めた文献・情報等を通じた右研究の成果として、大略、次のような新たな知見を得ることができた。(その一部は既に「タイにおける西欧法の継受」と題する論稿として公表された。)1.<タイにおける西欧法の継受>全般について、(1)ラマ5世以来の法典編纂事業が中核であり、(2)当初はイギリス法の影響が強いが、徐々にフランス法の影響が看取され、何より(3)タイ民商法典の編纂が最大の懸案であったこと、2.<タイにおける法典編纂事業>全般について、(1)右事業が不平等条約の改正作業と直結して進展し、(2)諸法典の編纂に際しては、日本の立法例も含め、数多くの立法例が参酌され、(3)日本人法律家(その代表は、政尾藤吉博士である)も含め、数多くの御雇い外国人法律家が関与し、何より(4)タイ民商法典の編纂についても、日本民法典が大いに参酌され、政尾博士が主体的に関与したらしいこと、さらに基本的には、3.以上のタイ法の事情が、わが国の近代法整備の過程と符合すること、等がそれである。次年度は、タイ民商法典自体に焦点を据えた考究が研究課題になる。タイ民商法典に関する、より詳細な資料等を入手する中で、同法典と日本民法典との具体的関連性を検証する。
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