研究概要 |
1.アメリカおよびカナダの文献を収集して,同意能力の問題を検討した。同意能力の基準に関しては,これまで,(1)患者による決定の有無,(2)説明の理解の有無,(3)意思決定過程の合理性,(4)決定の内容の合理性,が提示されてきたが,近年のアメリカの文献で,(5)現実認識における妄想の不存在を基準に挙げる見解が提示されていることが注目された。また,アメリカ,カナダを中心に,法律における同意能力の定義を調査したが,研究者の理論的究明に比して,なお素朴なものが少なくなかった。 2.医師は,自らの治療方針に従う決定を下す者については同意能力を緩やかに定め,拒む決定を下す者については厳しく定める傾向がある。また,決定のもたらす結果が重大であればあるほど同意能力を厳しく定める傾向もある。これらは常識的に理解しやすいものであるが,アメリカの理論的研究は,これらを,決定者に,非常識なあるいはある程度非合理な決定を下す自由を保障するというインフォームド・コンセントの法理の基礎にある自己決定権の考えに矛盾するとして非難している。この点について私は,決定が病的な場合と非病的な信念に基づく場合との区別によって,自律権と矛盾しない同意能力の基準を立てることの可能性を追求している。 3.精神病患者,特に精神病院入院患者の治療拒否,特に抗精神病薬の服薬拒否の問題についてアメリカの判決を検討した。多くの判決に共通するところは,抗精神病薬の強制的服用が許されるのは,(1)投薬が患者や他の入院患者に対する急迫した危険を防止するために必要である場合か,(2)裁判所において,(1)患者の同意能力が欠如していることと,(2)投薬が治療上必要最小限のものであることまたは患者に能力があれば患者が投薬に同意していたであろうことが証明される場合,に限られるということであった。
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