(1)研究の基礎作業として、従来の刑事弁護に関する議論を整理し、捜査段階の弁護活動において証拠の収集・保全が果たすべき役割について、どのような理解がなされてきたのかを調査した。それによれば、事実としての証拠収集活動の重要性は十分に認識されているとはいえ、その法的手段についての理論的検討は未だ十分とはいえず、今後の発展が期待される分野であることが明らかになった。本研究も、実態調査を主眼としつつも、この点での理論的解明を目指すこととしたい。なお、公刊された裁判例等による事例収集は、その件数がもともと少ないため数的には十分なものとはいえないが、一定の成果をあげつつある。統計資料の分析については、本年度は着手することができなかった。 (2)弁護士会に対する照会を通じて、近時証拠保全の手続が用いられた事例を調査した。その結果、東京第一弁護士会から、一例の確定事件記録を収集することができた。事案は、外国人被疑者に関する出入国管理及び難民認定法違反事件にかかる被疑者の取調べの際に捜査官の暴行が加えられた疑いがあるとして、当番弁護士である弁護人から、証拠保全として、被疑者の身体及び取調室の検証の申請がなされたものである。これについては、なお、今後の分析が必要であり、かつ、他の地方裁判所管内で発生した事件にかかる手続との比較検討の必要性が大きい。これらの資料収集及び比較検討は、次年度における研究の中心となるものである。
|