今年度は、旧東ドイツの連邦への吸収、および旧ユ-ゴスラヴィアにおける連邦解体のプロセスを主として政治的・経済的側面から検討してきた。いわゆる「体制転換」にかかわる諸課題に当該国がどのように対処し、どのような問題が「社会主義の終焉」から「資本主義体制」への移行のなかで浮上しているかに焦点を当ててみた。 旧東ドイツの場合、連邦政府を新五州との関係において、経済再建に必要な条件や財政基盤の違いが大きすぎるために統一した政策を形成できないでいる。連邦制に強制的に編入、併合され、また、かつての東ドイツ国家のアイデンティティーの喪失と新しい連邦制内部での不利な境遇の中で、体制転換はきわめて厳しい条件にさらされている。しかし、現在の連邦制からの離脱が不可能だとするならば、今後は、「連邦制の変容」を「国民国家の変容」について新たな提起をしていく以外に活路はない。統一過程の意義を将来構想が再度問われていると言える。 旧ユ-ゴスラヴィアの場合は、この「体制転換」が激しい民族主義のエネルギーを放出して、連邦は解体そして内戦への道を辿った。しかし、この過程は決して民族主義の再燃や民族排外主義の復活なのではなくユ-ゴスラヴィア社会主義の実験とも言うべき自主管理社会主義の危機そして失敗に起因するものであった。一般に社会主義の終焉にともなう体制転換は、「階級形成闘争」の形をとるが、なかでも「社会的所有」・「労働者自主管理」というシステムをとるユ-ゴスラヴィアではそれが激しくあらわれた。新たな体制が見えないなかで、民衆は民族という枠にすがり、民族ぐるみで対立する状況を生んでいった。内戦の論理と心理をここに見ることができる。 以上の検討を踏まえて、近々に両者の比較的考察に関する論文を公表する予定である。
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