1989年以降の「社会主義の終焉」と「冷戦の終結」は、旧社会主義国家において体制転換という激しい社会変動をもたらした。なかでも東ドイツとユ-ゴスラヴィアにあっては、国家形態の点からみると、ドイツ連邦共和国への東ドイツの吸収と連邦国家の解体という好対照な経過を辿った。 本研究ではこの点に着目した結果、1.体制転換にともなう階級分化と民族問題、2.党=国家体制の崩壊と連邦制度、3.ヨーロッパ経済との結び付き、の三点において際立った特徴を確認することができた。 東ドイツの場合は、悲願の民族統一が西ドイツへの合併・吸収という形をとった結果、統一のユ-フォリアの背後で、従来のアイデンティティーの喪失、再建に必要な財政的基盤の欠如、ドイツ経済の後進地域へ転落といった状況を導いたのである。そして現体制への不満は、昨秋の総選挙における旧政権党への支持の伸長となって表れた。 他方、ユ-ゴスラヴィアの場合は、体制転換は民族紛争の再燃と内戦への激化、連邦の解体と構成共和国の分離独立という道筋を経てきた。それはEU、国連をも巻き込んで尚も終息する気配を見せていない。対外的に見れば、ヨーロッパ経済へ接近する北のクロアチア・スロウヴェニア、一方ヨーロッパ・世界経済から隔離され制裁される新ユ-ゴスラヴィア(セルビア、モンテネグロ)という分裂状況を生んでいる。 以上の考察をへて、1.旧社会主義国における民族問題の視座、2.民族問題と国家形態としての連邦制の諸問題、の二点が結論として導かれる。
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