研究概要 |
本年度は「ケインズの理論的変遷過程-その1.ケインズ関連文書の検討を中心として」を研究テーマとして掲げたのであるが、その研究実績は以下のとおりである。第1は、Rymes,Keynes's Lectures;1932-35,Macmillan,1989の翻訳作業である。これは『ケインズの講義:1932-35年』(東洋経済新報社)と題して7月に刊行した。この作業にさいして著者との綿密な打合せを行うとともに、関連する重要資料Keynes's Lectures,1932-35をCarleton大学から取り寄せて検討した。これらを通じてこれまで知りえなかった貴重な事実(例えば、1933年、1934年におけるケインズの体系だった理論展開とか、流動性選好説の具体的展開等)が明らかとなった。そしてこの点を中心にして論文「ケインズの講義録(1932-35年)の検討」を発表した。第2は、『市場社会の検証』(ミネルヴァ書房)の編集である。ここでは全体の編集以外に、序章(2名で分担)および第9章「ケンブリッジ学派における二つの流れとケインズ革命」を執筆した(7月に刊行)。第3は、『ケインズ全集』第27巻『戦後世界の形成-雇用と商品』(東洋経済新報社。現在、初校ゲラ段階)の翻訳作業である。同書は「商品」政策や「雇用」問題をめぐる晩年のケインズの取組を理解するうえできわめて貴重な資料であることを、改めて確認することができた。なおこれに関連して論文「国際主義とナショナリズムの相剋」および「価格の安定化をめざして」(未発表)を執筆した。第4は、拙著『ケインズ研究』(東大出版会、1987年)を英訳したものを、本年度にリリースされたKeynes's Papers(マイクロフィルム)、当該分野での最新の研究動向、ならびにその後研究を加えてきた「ヴィクセル・コネクション」などを組み入れつつ、大幅に改訂する作業である(横80桁×縦35行換算で535ページを執筆済み。最終的には650ページを予定している)。
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