今年度は特にベクトル自己回帰における様々な問題を集約し、かつベクトル自己回帰の推定にともなう回帰診断の問題を整理し直すことから研究を開始した。この研究は「日本統計学会誌」第22巻、第3号、(1993年)に掲載される。 ベクトル自己回帰の次数選択は実証上重要な問題だが、統一的な方法は知られていないため、「The Order of Vector Autoregression with unit roots」(Discussion Paper383)にまとめた。この論文では、まずワルド検定法、尤度比検定法、T検定法、の単位根の存在の下での分布を導出した。特に実証上頻繁に用いられるT検定法の有用性を明らかにしたことに意味があろう。 さらに「Estimating the rank of cointegration after estimating the order of vector autoregression with unit roots」により、自己回帰の真の次数が未知の場合の、共和分のランク決定の最尤法の分布を調べた。この論文では、自己回帰の決定は先のDiscussion Paper383の方法を使う。そして結論として、自己回帰の次数選択法にかかわらず、共和分の次数はほぼ同じになるという非常に実際的な結論が得られた。初年度の研究は以下のようであるが、かなりの成果がえられたといえよう。(オーストラリアにおける国際学会で招待論文として報告) 平成5年度が初年度であるため上述の「研究経過」以外に特に別記するべき内容は無いが当初の研究目的に比ベて自己回帰の分析に比重がかかりすぎた気配がある。しかし、その次数決定がt検定が行えるという、重要と考えられる結論を導出でできた。また共和分のランクの決定法では、自己回帰の次数決定法にかかわらず、最尤法によりほぼ変わらない結論を得るという、便利な結果を導くことができた。
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