計量経済学において最近の5年間もっとも脚光を浴び、アメリカのみならずヨーロッパの学者も幅広く巻き込んだ研究主題は「非」定常時系列分析である。非定常分析といっても発散する時系列ではなく、単位根を含む時系列、つまりランダムウォークが分析対象でである。この時系列の分析上の問題は、例えば最小2乗推定量の漸近分布が正規分布にならないことなどに見ることがきよう。この研究主題には、数多くの実証分析の研究者をも巻き込まれている。一言で表現すれば、従来マクロ経済分析で使われた定常時系列分析法は「非」定常時系列分析法に変わり、分析法が新しくなるため、分析結果の変更も余儀なくされるのである。私が行った「マネーと所得の因果分析」(The Unit Root Analyses of the Causality Between Money and income)では、従来の定常分析法を使えば、マネーから所得への因果が検出され、いわゆるマネタリストを支持する結果となった。しかし非定常分析に拠れば、ケインズ派を支持する正反対の結果がもたらされる。非定常時系列をベクトル時系列に拡張すると、ベクトル自己回帰が単位根を含む場合になる。これが共和分(Cointegration)分析であり、単一変数の場合よりも一層複雑な問題が含まれる。他方、イギリスを中心に開発され、かつ発展してきた自己回帰の誤差修正モデルは「長期均衡」という概念を自己回帰式に導入して多くの実証的成果を挙げてきた。現在は、この誤差修正モデルと共和分分析が相乗して、理論的のも実証的にもますます「非」定常時系列分析に関心が集まっている。当科学研究費による研究は、「研究発表」の項からも明らかなように多岐にわたるが、主たる成果としては、ベクトル自己回帰過程の次数選択と共和分の関係の研究を上げることがよう。先にも述べた「因果分析」のような実証研究は、未完成だが、他にもいくつか継続している。本研究では、幸い、非定常時系列に関する多くの成果を示すことができたが、諸研究に疎まず協力された共著者の方々に、ここで記して感謝したい。
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