研究概要 |
企業内昇進に関する前年度の研究を受けて,本年度は企業内賃金構造を中心に分析を進め,同時に韓国との比較研究を試みた。 職階(部長,課長,係長,職長)と非職階とに分けて賃金決定モデルを推定したところによれば,(1)基本的変数として勤続年数と外部経験年数とを考慮したモデルよりも,勤続年数と年齢を考慮したモデルのほうが,概して高い決定係数が得られる,(2)管理的地位が高くなるほどモデルの当てはまりが,悪くなる,(3)教育水準の上昇は時間当り賃金を高めるが,しかし教育が賃金に及ぼす効果が職階よりも非職階のほうが大きい,(4)金属年数の上昇とともに時間当り賃金は高まるが,金属が賃金に及ぼす効果は職階より非職階のほうが大きい,(5)年令要因の賃金に及ぼす効果は一般に職階のほうで大きく,また職階の中でも下位のポジションより上位のポジションのほうが大きい,(6)勤続と年令を考慮したモデルを用いて賃金を諸要因に分解すると,年令要因の寄与が大きい,等の事実が発見された。 韓国との比較からは,1つの大きな差異が発見された。年令要因のみの効果を年令別に描くと,日本とは逆に,韓国では非職階の年令別曲線が最も高い位置を占めた。年令要因の効果を年令別生活費保障と解釈するなら,韓国ではこの解釈が最も良く妥当するのは非職階であり,管理階層の賃金は生活費保障から離れることになる。しかし日本の賃金構造では,上位管理階層ほど年令別曲線が上方に位置しており,生活費保障仮説を単純に適用してもよいものかどうか,今後のより一層の研究に待たなければならない。
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