わが国の内部昇進制度には子飼いあるいは生え抜きを重視する顕著な特徴があるといわれてきた。この特徴をデータに基づいて確認するとともに、昇進によって賃金水準にどのような差異が生じるかを明らかにするのが、本研究の基本的な目的である。 『賃金構造基本統計調査』の個票を用いて生え抜き労働者を推計し、その昇進速度を非生え抜きと比較したところによれば、(1)生え抜きは非生え抜きに比して各管理階層に到達する速度が速い。(2)昇進速度に大きな差がみられるのは係長や職長のような下位の管理階層においてである(3)人口高齢化や経済成長率の鈍化の中で生え抜きも非生え抜きも昇進速度が低下した、(4)しかし生え抜きのほうで昇進の遅れが目立つ、(5)他企業経験が昇進速度に及ぼすマイナスの影響も1970年以降緩和されつつある。つまり非生え抜き労働者への差別的処遇は後退しつつあり、ここにわれわれは終身雇用制度の変質の前兆を見出すことができる。 昇進によって賃金水準にどれ程の差が生じるかは、職階(部長、課長、係長、職長)と非職階のそれぞれについて賃金決定関数を推定することによって検討することができる。データは『賃金構造基本統計調査』の個票である。(1)主要な変数として勤続と外部経験とを考慮したモデルより、勤続と年令を考慮したモデルのほうが、一般に高い決定係数を与える。(2)上位管理階層ほどモデルの当てははまりが悪い、(3)年令要因の時間当り賃金に及ぼす効果は上位管理階層ほど大きくなる。等の諸事実を発見することができた。年令に応じて賃金が上昇する現象は、年令別生活費保障の仮説で説明することができる。しかし上位の管理階層にこの仮説を適用することができるかどうかは、今後に残された検討の課題である。
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